Dカップ観戦記


 前日は春の陽気でしたがその日は一転して吹雪、横浜国際総合競技場のこけら落としとなる’98年ダイナスティーカップは厳しい天候下で催されることになりました。 駐車場はなく、最寄りの駅(新横浜など)から十数分、特段整備もされていない単なる狭い歩道を難民のように行軍して向かいます。 人気の日韓戦とあって、お巡りさんもダフ屋さんもレインコート姿で大挙しており、しかしどなたも白い息を吐きながら眉毛が八の字、ご苦労様です。 FCの子供達を引率しながら、手の切れるような霙混じりの突風の中を傘を盾にして進み、到着したときには下半身ずぶ濡れ、皆よくぞ遭難しなかったというのが洒落にならないような状況でした。 二階席の見晴らしはすこぶる良好で、芝は美しく、但しこの擂り鉢状のスタジアム中を洗濯機でかき回されたように横殴りの雨雪が渦巻き、熱燗の酒は瞬時に冷やと化し、弁当を啄む箸を持つ手も感覚を失ったような塩梅。 地元小学生の鼓笛隊には心が和みましたが、きっと誰しも「眠るな、眠ると死ぬぞ」と自分に言い聞かせていた待ち時間ではなかったでしょうか。
 市長の挨拶にはブーイングこそなかったものの、あちらこちらで野次が飛ぶ始末。 これには訳があるらしい。 そもそも横浜市というのは福祉が最低レベルにあり、「みなとみらい」か何か知らないが、米国まで行って有名ホテルやビルを買いまくり「あるところにはあるもんだ」と庶民を唸らせた挙げ句バブルが弾けて日本経済が破綻しそうになっても蛙の面といった三菱地所様など巨大企業は活況を呈しているものの、市民サービスは僕の知る限りお隣の川崎市の足下にも及ばないし、全国最悪と評する人もいるくらいです。 少なくとも、昨年新聞社か何かが行った自治体の情報公開度調査では全国最低でした。 それならそういう市長や議員を選ばなければ良いじゃないかというので、心ある人は投票に出かけているはずなんですが、選ばれちゃうんですねこれが。 きっと、何か目に見えぬご功績があるのでしょうね。
 で、この競技場、2002年の日韓合同ワールドカップの決勝戦の舞台にと横浜市が建てたアジア屈指の規模と設備を誇るスタジアムのようで、欧州や南米のサッカー場に匹敵する7万人の観客を収容できるのだそうです。 この正月には我がFCも横浜市主催の子供サッカー大会で芝生を踏ませてもらいましたし、今回の日韓戦には横浜市民2万人を対象とした抽選招待券が配られています。 だから、何故横浜市民ばかり優遇するのだという批判の声もあるらしい。 でもね、いや、これは小耳に挟んだだけで正確な情報ではありませんよ、というより正確な情報を入手できないでいるのですが、この競技場を建てるのに横浜市民は一世帯あたりウン十万円の市民税を支払ったことになるようです。 一人当たりウン十万円かも知れません。 どなたかご存じだった教えてください。 だから、向こう十年間のフリーパスくらいもらっても良いくらいなんです。 そんなことも知らなかった自分が馬鹿なのか、教えてくれないお偉い方々が意地悪なのか、まあきっとこの手のことは横浜だけじゃなかんべぇと諦めましょう。
 試合の方は、よござんした。 韓国のラインアップが一軍半だったとか芝の長さがどうだったとかいろいろ評価はありましょうが勝ちは勝ち。 「永遠の格下」と呼ばれて苦笑いして頭を掻いている時代は終わったなという印象。 昨年の夏、息子をプロ野球に連れて行ったとき、首位攻防戦でスワローズが絶好調のベイスターズに逆転勝利した好ゲームだったのですが、息子は「アナウンサーの声がしないところがいい」などと喜んでました。 三ツ沢にJリーグの試合を見に行ったときは、これはピッチのすぐ横の席だったのですが、「やっぱりテレビとは迫力が違う」と評していた。 今回は、二階席でサッカーの全貌が観られたのと、ナショナルチーム対決独特の雰囲気を味わえたのが良かったのではないかな。 テレビだとボールに絡んでいるところしか映りませんが、実際は全員が有機的に働いているわけですからね。 好ゲームほどそうですが、ボールと直接絡んでいない人間を含めた全体の動きに迫力がありますよね。 それから、普段Jリーグでは味方同士のチームメイトが敵味方に別れ、普段敵味方のライバル同士が同じチームで協力する。 ナショナルチームになったとたん、それが全体として大きな生き物のように機能し始めるわけです。 場内に“KOREA versus JAPAN!”というアナウンスが流れたとたん、観客がワーッ!となり、雪がワーッ!と舞う、この迫力はたいしたもんだ。 「代表対代表」なんて言わないですからね、「韓国対日本」なんて言う。 そうすると、実際は一地方都市の一競技場で何人かのおじさん達がボールを蹴っているだけなのに、朝鮮半島と日本列島が衝突したような錯覚に襲われるわけです。 そういう気を起こさせる位の好ゲームを提供できた関係者に敬意&感謝。 カズや呂比須や川口達が観られなかったのは残念。 岡ちゃん、隠したか。

--- 2.Mar.1998 Naoki


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