冬の夜の出来事


 ライブを控えて、最近はまた森通いです。 夜中に車で入っていくと、ちょっと肝を冷やすことがあります。 1月に降った大雪が、北斜面沿いの道路に残っていて凍結しているからです。 幅員が狭いので、スピードが出ていると田圃へ飛んで出そうになります。 そう、北斜面は未だに雪景色なのです。 そこだけ、何とも隔離された別世界のようです。 しかも、ヘッドライトに浮き出る雪塊は、何度も融解凍結を繰り返したものと見え、独特の目の粗い結晶となってキラキラと輝きます。 どうってことのない只の道ですが、時としてそれは神聖な道のように見えたりします。
 ところでこのライブの日程、ライブハウス任せでブッキングしたのですが、偶然の悪戯というか、コーチをしているサッカークラブの記念式典とバッティングしてしまいました。 当日は、招待試合が幾つも用意され、きっと猫の手も借りたいほどでしょうに、肝心なときに姿をくらます奴だと思われるでしょうね。 でも、こればかりはライブ優先なのです。 どうかお許しを。
 しかし昨年来、弾き語りとサッカーという無関係なこの二つが、何かと失速しがちな自分の行動を牽引する二頭立ての馬車馬の役割を果たしてきたのは確かです。 先日も審判資格更新のために受験してきました。 また走らされましたが、今回は、オリンピック気分というか、自己ベストを出すつもりで挑みました。 1ラップ目はペースメーカーの伴走付きで、競争でも何でもないし、例によって若い衆はお喋りしながら流しているわけですが、こちらは体力の限界を試すつもりでした。 負けてたまるか! 若い衆に負けてたまるかというわけです。 ところが、誰しも自然と競争心というものは湧くのであって、結局はラストスパートしてきた連中五六人にまくられて終わり。 でも気持ちよかった。 駆けっこで競争心を持てたのは中学校以来かも知れません。
 スポーツ。 およそ自分とは縁のないものでした。 こう言っちゃ悪いが、なんだか粗野な世界に思えてもいました。 しかし、長野オリンピックのニュースをテレビで見るに付け、どん底から這い上がってきたジャンプの原田選手や複合の萩原選手の、あの柔和な笑顔は何処から来るのか、彼等のあの悠然とした謙虚な自信を何が支えているのか、音楽的表現者が必要とするある種の精神課程と無関係ではないような何かを彼等が持ち合わせているように思えてなりません。
 さて、サッカークラブの練習ですが、高学年になるとこの季節は薄暮になるまで続きます。 その後、他のコーチと打ち合わせを持ったりすると、帰りは夜になります。 先日、その凍てつく夜のグランドに目をやると、うつ伏せに横たわっている人影のようなものが見えました。 目を凝らしてみると、それが何人もいる。 凡そ灯りの届かないグランドの隅から隅まで、何人も何人もうつ伏せてじっとしている。 何だろうと眺めていると、何を合図にしたかその人影は「わぁ!」と一斉に立ち上がり、いきなりサッカーを始めたのです。 どうやら卒業間近の6年生達が、打ち合わせを終えて出てきたコーチ連中を驚かせようと仕組んだ悪戯だったようです。 「こら!もう遅いから早く帰れ!」と怒鳴っても、「いいの!いいの!」と彼等は暗闇のグランドでサッカーを続けています。 本来、もっと叱らなければならないところですが、何だか映画の一場面のようなその光景に、僕は暫く見とれてしまったのでした。

--- 09.Feb.1998 Naoki


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