Cカップ観戦記

 最近は、FC(サッカー少年団)に加えSC(スポーツ少女団)の面倒までみるようになり、楽しいながらも体力と時間の工面が大変です。 また、この手のボランティア活動は、直接仕事をしない人ほど批判的で独善的であるという傾向があり、自分も立場が違えばそうなんだろうと肩の竦む思いだけれども、少なからず精神的なストレスというものが伴います。

 先月末、県のサッカー協会からコンフェデレーションズカップ前座試合出場のオファーがありました。 仕事を増やすのは気が引けるのですが、もし当選すれば子供達の良い思い出になるだろうと、高学年保護者の方々の同意を得て申し込みました。 もし当選したらどう対応するか、どの11人を出して、誰を観戦に連れて行くかなど、それはそれでいろいろあるのです。 メールを撒いたくらいでは誰も答えてくれないのが常で、かといってこっちで決めてしまうと後でとやかく言われる。 そこへ日本代表が決勝進出。 まさかの前座試合当選。 裁けるかどうか不安なまま自腹を切って申し込んだチケットが今度は奪い合いの状態に。 神経使いました。 こんなこと、愚息がFCに入っていなければ頼まれたってやりませんね、そう思いました。 けどこの親バカパワーも使いもの、うまく転べば素敵な経験に繋がるのです。

 愚息の学年は、2年生からFCに入り、最初の内は蝶よ花よと可愛がられたけれど、試合もないまま放っておかれたせいか、4年生になってもふがいない状態でした。 平均的には下級生より50m走、垂直飛び、反復横飛びなどの基礎運動能力に劣り、人数が多い割りにはどうしようもない連中、FC史上最悪とまで噂されるように。 コーチ仲間達にインタビューをしたときには、「運動能力が低い」、「基本ができていない」、「練習態度が悪く不真面目」、挙句は「頭が悪い」などという酷評も。

 しかし、中に一人だけ、「FC第二の黄金世代」と予言したコーチがいました。 この方のご子息が実は「第一の黄金世代」でした。 いやぁ、惚れ惚れするようなサッカーをしていましたね。 コーチが束になってかかっても翻弄され通しでした。 この方は、ご子息が5年生のとき親バカパワーを炸裂させました。 結果、周囲と軋轢を生じて、6年生の時にはコーチ休業に追い込まれたほど。 愚息チームに対して何故そんな太鼓判を押すのか不思議でしたが、この方のアドバイスは一縷の蜘蛛の糸のように思われました。 そして臨んだ愚息4年生秋の公式戦、あれよあれよとチームは活性化して、終わってみればFC始まって以来二度目の快挙を達成していました。

 この方がよく仰っていた「子供というのは誰もが成長過程にあります。コーチがスポイルさえしなければ、まさかと思う子がまさかの大化けをします。」という言葉通りのことをその時目撃し、そして今も目撃し続けています。 FCには、「橋本さんは、まだ夢を見ている」と忠告をくださる先輩コーチがおられる一方、「コーチが夢を見なくてどうしますか!」と怪気炎をあげている先輩コーチもいます。 実に面白い集団です。

 このチームにはその後も様々なドラマが続き、最近ではキャプテンが重症を負うなどのアクシデントもありました。 キャプテンを欠いて初参加した全日本少年サッカーは1回戦で敗退。 ここはコンフェデレーションズカップ前座出場と決勝観戦という素晴らしい経験で盛り上がってほしいと思った次第です。 さて、その前座試合は、期待に違わず活気に満ちたゲームとなりました。 キックオフするや否やの愚息の3人抜きドリブルから始まって、普段サブだった連中も小気味良い活躍ぶり。 激しい攻守の切り替わりにも全員が果敢にプレイして余す駒のない戦い。 試合終了間際に決勝点を叩き込んだのは最小兵の「後発組」選手でした。 彼は、もの凄い勢いで「大化け」を実践して見せてくれている子の一人です。

 前座試合が終り、代表の練習が始まる頃には、観客は既に6万人を超え、早くも大応援団の様相を呈していました。 選手入場では怒涛のような声援が鳴り響き、フランス国歌、君が代斉唱。 我らが国歌は余りにも荘厳で、相手を震え上がらせるには充分なほどエキゾチックなメロディーをスタジアムごと斉唱。 さあキックオフというときには、勇ましい太鼓の連打と地響きのような歓声。 しかし、ここで大阪の小学校児童殺傷事件を悔やみ黙祷の呼びかけが。 それまでの大歓声が幻のように止み、小野が、デサイーが、川口が、ジョルカエフが、トルシエが、ルメールが、その他日仏代表達が、空前の一大サッカーイベントに東奔西走した関係者達が、そして競技場を埋め尽くした65335人の観衆が起立し、全員で黙祷を捧げました。 横浜国際競技場は、ボールをセンターマークに置いたまま、数十秒のあいだ無音の空間となりました。 サッカーというものが、子供を大人に、大人を子供にする最高の遊びであり、そして今全ての子供達に向けてメッセージを放っているように感じられた瞬間でした。

おぉ、横国に鴨一FCの文字が。
さあ、歴史的決戦の火蓋が切って落とされた!
ワルガキどもを引率するのはウザイの一言・・・


--- 11.Jun.2001 Naoki

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