青春のルーツ

 昨日、南青山のCAYというところで、 和製ロックバンドの草分けの一つ、 四人囃子のオリジナルメンバーである ベーシスト中村真一氏の追悼演奏会がありました。 中村氏は高校時代、ドラムの岡井大二氏、ギターの森園勝敏氏と ロックバンド「ザ・サンニン」を結成、 大学時代に四人囃子へと進化しました。 中村氏は、アルバム「二十歳の原点」と「一触即発」をリリース後 1975年に四人囃子を離れますが、以降も親交を保ち、 1978年の伝説のコンサート「包(パオ)」にも参加されていたようです。 僕は、2003年12月に 高円寺のショーボートで行われた「安全バンド復活ライブ」において 岡井氏や森園氏らと演奏する中村氏の演奏を目撃しています。 今年は7月にオレンジノーツというバンドでライブを企画されていましたが、 大震災後は復興関連の業務で超多忙となり、 5月25日くも膜下出血にて急逝されたとのことです。

 僕自身、四人囃子に関しては、 アルバム「一触即発」を持っていたことと、 何かのギター・クリニックで森園氏の低音弦ベタベタ押さえ奏法を教わったのと、 森園氏に代わって四人囃子に参加した佐藤ミツル氏の面識を得て ヘビメタバンドのオーディションを受けて落っこちたくらいのご縁です。 いや、もう一つご縁があるのは、四人囃子が、 以前このエッセイでも触れた URC(浦和ロックンロールセンター)から巣立っているということです。 別に浦和のミュージシャンが集まったわけではなく、 当時の埼玉大学の関係者が立ち上げた、いわばボランティア・サークル。 ちなみに四人囃子のメンバーは杉並出身とのこと。

 僕が高校の頃、銀座のスリーポイント というところでライブ・コンサートが行われていました。 当時の東京は、焦臭く、期待感に溢れていて、 それに憧れた僕は何度も通いました。 そのライブを企画・運営していたのがURCです。 タージマハル旅行団やローラーコースターといった 前衛からR&Bまで様々なバンドを観ました。 中で最も気に入っていたお目当てのバンドは安全バンドで、 典型的なR&RやR&Bをやるわけではなく、 自然体のメロディーを日本語で歌うロックバンドでした。 この安全バンドと四人囃子こそがURCを代表するバンドで、 日本の音楽シーンになにか新しいものを発芽させつつある、 そんな期待感に満ちたバンドであったと思います。

 その追悼演奏会に潜り込めたのは、 故・中村氏の代役でベースを弾くことになった 元マゼンダのフジタヨシコさんが友達だったからです。 親交を深めるきっかけになったのは、 ヨシコさんがURCの関係者だったからです。 同級生に当たるのですが、もしかしたら三十数年前、 スリーポイントですれ違っていたのかもしれないねと言うと、 「私は不良ではなかったのでスリーポイントには1回しか行ったことがない」 とのことでした。

 そう、当時、ロックというのは不良の音楽だったんです。 アメリカのフィフティーズのようなリージェント頭の不良ではなく、 髪の毛が長く反体制と無軌道な行動が特徴の不良です。 典型的な絵に描いた不良ではなく、 何をしでかすか分からない焦臭い不良です。 その世代には、米国では黒人民権運動やベトナム反戦運動や ウッドストックに代表されるロックの嵐が通り過ぎた直後、 日本では団塊の世代が社会人になり学生運動の嵐が通り過ぎた直後、 そんな背景があると思います。 僕の世代は、その世代の末っ子辺りに相当していて、 そういう焦臭さと商業音楽の甘ったるさが交錯していたと思います。 けれど、僕が抱いたバンド志向のルーツは、 もちろんクリームやレッドツェッペリンといった 海の向こうのロックバンドに憧れたという契機はあるでしょうが、 やっぱりあのスリーポイントではないかと思うのです。

 追悼コンサートは、縁の方々の演奏で始まりました。 途中、息子さんも登場し、明るく、しっかりと挨拶をしていました。 続いて、安全バンドの長沢ヒロ氏がベースを代行する「四人囃子」が、 飛び入りも含めて次々と縁のゲストを迎え、 美しい曲、楽しい曲など素晴らしい演奏を披露しました。 やはり彼らは凄いなと思うのは、 いつの間にか今このときを塗り替えてしまう、 音楽の中へ我々を引っ張り込んでしまうことだなと感じました。 その間僕は、かれこれ3〜4時間も立ちっぱなしだということは忘れており、 いわば足が地面から1mくらい浮き上がっているわけです。 そして最後、「四人囃子」だけとなり、 森園氏が次の曲で最後であること、 暗にアンコールは控えてほしいことを告げました。 その曲は、シリアスで、真剣そのものでした。 足が地面から1mどころではなく、 夜空に放り出されたような感覚がありました。 演奏が終わり、ステージのスクリーンに映し出された故・中村氏のスライドに、 おそらく無二の親友であったであろう岡井氏が、 一礼手を挙げてドラムセットを離れる姿が強く心に刻まれました。

駆けつけたローリー氏とベースの長沢ヒロ氏。 とにかく演奏のクオリティーが素晴らしかった。
チャー氏と金子マリさんもノリノリのステージを展開。 チャー氏は俺にも言わせろとマイクをとり 「真ちゃんありがとう」と一言。
本気モードの「四人囃子」による鬼気迫る音楽。 演奏会は予定調和では終わらなかった。 彼らはこれを捧げたかったのだ。

--- 19.Sep.2011 Naoki
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